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【退職代行小説】アイドル退職|知らない、言いづらい退職のこと。相談に乗ってくれたのは謎の石版と謎の声

パパの仕事と私の仕事

 
 暴れマンモスの群れに襲われ、行方の分からなくなっていたパパはプロデューサーになって帰ってきた。

「パパ、ぷろでゅーさーってなに?」
「他の人の仕事を手伝う人だ。父さんの場合はアイドルの仕事を助ける」

「私あいどるさんに会ったことない。パパの友達?」
「お前が今日からアイドルになるんだよ」
 パパにそう言われよくわからないまま、私はアイドルになった。

 それからほぼ毎日、曲と振りつけを覚えろと、よくわからない歌や変な踊りをパパは私に披露した。

 どうやらアイドルとはシャーマンによく似た仕事のようだ。村には既にシャーマンがいる。シワだらけのおばあちゃんで最近腰を痛めてからはめっきり起き上がらなくなってしまっていた。

 練習の合間の休憩時間。パパは呟いた。
「マンモスの群れに追い立てられて、穴に落ちたんだ」

 村近くの洞窟の中でパパの声はよく反響した。歌と踊りの練習はここでしている。パパは洞窟のことをスタジオと勝手に呼び始めていた。

「穴の底は深く、暗かった。お腹が空いて身体中が痛くて、頭の中が霧みたいに真っ白になったとき、父さんは神の国を見た」

「神様を見たの?」
「父さんが見たのは人だ。お前や村の皆みたいな。だが、着ている服や持っている物が全然違う。人の数はこの村と比べものにならないぐらい多い。天を突く高い塔が並び、塔の間を丸い四つ足を回転させて進む獣の群れが絶えず走る。

 いろんな場所が目の前に現れては消え、また知らない言葉や音が絶えず耳に入った。あれはきっと神の創った国で、それを父さんが見たり聞いたりしたことには何か理由があるはずなんだ」

「神様の国で聞こえた言葉を教えてよ」
「いいぞ。えーとな」

 大昔の大切な思い出を振り返る時みたいに、パパはしばらく遠くを見つめ続け、やがて口を開いた。
「モーニング娘。、AKB48、ももいろクローバーZ、SMAP、TOKIO、嵐」
「どういう意味」
「詳しくは父さんも知らない。ただ、大切な言葉に違いない」
 
 

ステージの降り方がわからない

 
 最初のライブには村の人はほとんど誰も来なかった。
 これで終わりかと思っていたら、「これからが本番だ」とパパは余計息巻き、そんなパパについ乗せられて2回、3回とライブをしていくうちに少しずつ見にくる人が増えていった。

 私は困っていた。
 パパが生きて帰って来てくれたのが嬉しくて、思わずパパに流されるがままアイドルを始めた。どうせ上手く行かず長続きしないだろうと考えていたが、気づけばライブを開くと村のほとんどの人が来るようになっている。

 パパは毎日忙しそうにしながらも嬉しそうに仕事をしている。今日も「えいぎょう」でスタジオには来れないと、私ひとりで練習することになった。

 パパが生き生きとしているのはとっても良いことだ。けど、私はこのままアイドルを続けていくつもりはない。

 1度、そのことをパパに話したら冗談だと思ったのか、真面目に取り合ってくれなかった。
「辞めるんだったら、退職手続きをしないといけないな。はははっ」

 どうしたら私はアイドルを辞められるのか分からないし、雨が降っているせいで洞窟はじめじめして、私は暗い気持ちになっていた。

 だがふと、洞窟の奥の床で何かがぼんやりと光っていることに気がついた。焚き火の後だろうか。
 目を凝らし、よく見てみるとそれは以前お父さんが見せてくれた石板だった。

 手のひらに収まる大きさで、平たく、裏に欠けた果物の絵が彫られている。パパは「あいふぉん」と呼んでいた。

「この凹みは何?」
「本当はその凹みに透明な板をはめ込まないといけないんだが、どこにあるのかわからなくて未完成なんだ。完成したらお前にやるよ。移動や休憩の合間に投稿するんだ。InstagramやTwitterをね。あとわからないことを調べたりもできるぞ」
 そうパパは言っていた。
 

 
 あいふぉんの凹みには水が溜まっていた。洞窟の天井から漏れた雨水が垂れたのだろう。
 その水から光が出ている。

 あいふぉんは焚き火や太陽とは違う不思議な光を出している。
 その光へ近づくことに私は夢中で、床が雨水で濡れていることに気づかなかった。盛大に足を滑らせ、尻餅を着く。

 洞窟内の岩は固く、思わず声が漏れた。
「しりいったぁ!」
 するとあいふぉんから声がした。
『はい、Siriです。何かご用ですか』

 喋ったのは紛れもなくあいふぉんだった。驚きと痛みからしばらく呆然としていたが、パパが言っていたことを思い出した。「わからないことを調べたりもできるぞ」

「私、今の仕事を辞めたいの。どうしたらいいか知っている人を教えて」
 あいふぉんから不思議な音が鳴り始めた。やがて音は止むと、また声がした。
「お電話ありがとうございます。退職代行EXIT、ダイコウと申します」
 
 

知らないし言いづらい退職のこと

 
「あの、私仕事を辞めたいのに、退職のこと何もわからなくて困ってるの」
「相談についてはすべて無料です。お気軽にご質問ください」

「それにパパがプロデューサーだから、1度自分から話したことはあるんだけれど、言いづらくて」
「お客様と同じように親族やご友人の方が会社を運営しているので、自分から退職の話がしづらいとご相談される方は少なくありません。お任せ頂ければ弊社がお力になります」

「わかったわ。それでこれから私はどうすればいいの」
「弊社ホームページにあります、問い合わせ用フォームからLINEあるいはメールでメッセージを送信ください。弊社スタッフがお返事させて頂き、必要な情報や料金のお支払いについてなど、詳細なご説明をいたします」

「りょうきん?」
「はい。正社員、契約社員で5万円。アルバイトは3万円になります」
 まずい。りょうきんやごまんえんが何なのかわからないが、私が今持っていないことは確かだ。

「私それ持ってないかも……」
「クレジットカードのお支払いにも弊社では対応しております。クレジットカードはお持ちですか?」
「あっ! 確かそんな名前の石板ならパパから貰ったわ」
 
 

プロデューサーと退職代行

 
「それでうちの所属アイドル、いや娘から、依頼があったんですね。プロデューサーである私に退職の意思を伝えてほしいと」
「はい。そうです」

「今日はライブがあります。そろそろ開始時刻ですが、娘は出ないと?」
「いえ。本日のライブはやりたいと本人のご希望としてお聞きしております」

「わかりました。彼女が退職することも、今日のライブに出ることも問題はないです。けど、急ぎの用があるので一旦電話を切ります」
「急ぎの用ですか」
「そうです」

「担当アイドルのラストライブを見逃しては、プロデューサー失格なので」
 
 

ライブの終わり アイドルの終わり

 
 あいふぉんが光ったあの雨の日から3日後、私はいつもの衣装を着て、いつもの会場である村の中央へ向かった。

 村の皆はいつものライブだと思っているだろう。けど違う。今日は私の最後のライブだ。
 今日のライブ中に、ダイコウさんがパパへ電話してくれることになっている。

 退職のことを何も知らなかった私でもなんとかできるように、私がアイドルを辞めても、パパならすぐ新しい人をプロデュースできるだろう。

 アイドルの仕事は嫌いじゃない。
 でも、嫌いじゃないと、ずっと続けたいは別のことだと私は思うから。

 最後の曲、「恋の打製石器」を歌っている途中、異変が起きた。
「暴れマンモスだ!」
「来るぞ! 皆逃げろ!」

 客席の後ろの方からそんな声が上がったかと思うと、1匹のマンモスが突っ込んで来た。
 真っすぐ私へと向かってくる。

 

 
 身体が震え上がった。
 久しぶりに見た大きな獲物に興奮が止まらない。

 右手に持っていた固く思い棒状の石をマンモスの眉間に投げつけた。パパがマイクと呼び、ライブのとき必ず持てと言っていたものだ。

 マイクに怯み少し右へよれた突進を、客席の左へ飛んでかわした。
 さっきまで私の立っていた石のステージは粉々に砕けた。

 私はステージから降りた後も歌い続けた。これは私のライブだ。最後まで私が歌わないといけない。
 だが、こんな状況で狩りの欲求はもう抑えられなくなっていた。

 騒ぎを聞き、武器を持ってやってきた村の人から石斧をひったくると、私はマンモスへと跳びかかった。
 歌いながら石斧を振りぬき、振り下ろされる強靭な前足や鼻をかいくぐる。

 やがて、突然の突進に及び腰になっていたファンの皆も武器を持って私に続いた。

「最高のラストライブだ」
 どこからか、そんな声が聞こえた。
 誰が言ったかはわからない。私はもう自分の最後の仕事に夢中だった。

 こうしてアイドルとしての最後のライブは終わり、私は元の狩人に戻った。
 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

ライター:竜飛岬りんご

22歳、EXIT社員。小説、アニメ、漫画、映画、ゲームが好きです。
気づいたら自社メディアに書いた小説が載りました。
稚拙ながらこれからも頑張ります。

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