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尾原和啓|ポジティブに会社を辞める! 転職経験13回のプロが語る「人生100年時代の転職哲学」

「REBOOT」のスローガン「『辞める』をポジティブに」をまさに実践している方が尾原和啓(おばら・かずひろ)さん。グーグル、マッキンゼー、リクルートなど転職すること13回、2018年に出版した『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』が話題となりました。

すべての労働者は法律で辞める権利が認められていますが、いわゆる「ブラック企業」では、辞めたくても辞めると言い出すことすらできない雰囲気だったり、辞意を伝えても認めてもらえずに悩んでいたりする現実があります。

そんな悩める方々へのヒントやアドバイスとなるように、辞めることをポジティブにとらえる尾原さんの転職哲学を伺いました。

人生100年時代になり、働き方も変わっている!

――著書の中に書かれていた「人生100年時代の転職哲学」とはどのような考え方なのか、今一度教えていただけますか?

尾原さん

これはリンダ・グラットンの本『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略』の中で語られていることですが、人の寿命はどんどん延びていて、近い将来、先進国では多くの人が100歳以上まで生きるようになると推測されています。

今までは20年間学んで、40年間働いて、20年間安らぐ、といったように人生80年で設計されていたんですが、100歳まで生きるとなると、おそらく80歳、90歳くらいまで、なんらかのかたちで働き続けなくちゃいけない。誰もがこうした時代の変化に合わせた働き方をしないといけなくなっています。

で、ここからは私の考えですが、人間の寿命はどんどん長くなっているのとは逆に、会社の寿命は短くなっています。大企業でも倒産や業績悪化によるリストラがありますから、新卒で入社して定年までずっと安泰に働ける会社など、もはやなくなっています。

加えて昨今では、AIに人間の仕事がとって代わられつつある。AI翻訳が今後もっと発達すれば言語の壁がなくなりますから、人件費の安い新興国の人たちとの仕事の奪い合いに勝たなければいけない。

そのように大きく変化する社会の中で、「どうやって100歳まで自分を食わせていくか?」というのが、人生100年時代の転職哲学です。どんどん転職することが当たり前で、どこでも誰とでも働けるプロフェッショナルなスキルと働き方を身につけることが求められています。

――尾原さんご自身も13回の転職をされていますが、1回目の転職もそうした転職哲学に則って決められたのでしょうか?

尾原さん

実際に何度か転職を経験していく中で、実感としてそういう考え方をもつようになりました。

僕の場合、最初の転職はマッキンゼーからNTTドコモへの転職だったんですが、なぜNTTドコモから声がかかったかというと、僕が高校生の頃からプログラマーとして仕事したり、大学時代は大学のサーバー管理者をしていたりとITの知識や経験があったので、そのスキルが評価されたんです。単にコンサルタントとしての能力で誘われたわけではないんですね。

つまり、本業以外の分野でもスキルを積極的に増やしたり、細分化したりして、自分の強みを認識しておくことが大切だと思います。

転職活動だけでなく、副業をしたり、ボランティア活動をしたりして、視野を広げて、自分の選択肢を増やすことですね。

いつでも辞められるように、つねに転職活動をしておく

尾原
――今の時代において、つねに転職活動をしないのは、危機管理能力がないということなんですね。

尾原さん

将来への不安が大きいと、仕事に集中できなくなりますよね。「自分のスキルを評価してくれる会社は他にもたくさんある。いつでも転職できる」と思うと安心するので、目の前の仕事に集中できて、結果的に今の会社でもパフォーマンスが上がるんですよ。

なので、つねに転職活動をして自分の市場価値を測ることをオススメします。実際に、マッキンゼーでは、社員が転職エージェントに相談することを会社として推奨しているんですよ。

――会社が社員に転職を推奨しているんですか!?

尾原さん

自分の市場価値を確認することで、自分の強みや弱点を客観視できますし、「今の会社でもっと頑張らないと!」とモチベーションが上がったりする。僕自身、今でもずっと転職活動をしていますよ。

自分を「商品」として市場に出して価値を確かめてみると、自分が当たり前だと思っていたスキルでも、他の人から見たら「すごく貴重です」と言ってくれることがよくあるので。

――なるほど、同じ仕事内容でも、会社や業種を変えてみると、価値が上がるかもしれないですね。

尾原さん

そうです。実際に、転職して給料が上がるケースは「今の会社で当たり前にやっていることが、転職先の会社ではレアで、希少価値をもつ」という場合なんですよ。

僕の経験で言えば、グーグルへ転職したときは、NTTドコモでiモードの立ち上げをやった経験を買われたんです。当時、僕は英語がほとんど話せませんでしたが、モバイル市場をゼロから立ち上げた経験をした人は世界中を見渡しても珍しかったので、その経験が評価されたんですね。

なので、どこでも誰とでも働けるようになるためには、「プロフェッショナルであれ」と言っています。「この仕事だったらアイツに頼むのがいちばん」と思ってもらえるように、ある分野のエキスパートになっておいたら強いですよ。

会社と社員は本来、フラット(対等)な関係であり、お互いにメリットを提供しあう関係です。プロフェッショナルであれば、会社に依存する必要はないので、もし今の会社が嫌なのであれば、すぐに辞めて次へ行けます。

円満退職なんてありえない。逃げるは恥だが死ぬよりはマシ!

――尾原さんのように、キャリアアップのために会社を辞める人もいますが、何らかの事情があって、今の会社を辞めたいけれど、実行に移せなくて悩んでいる人もたくさんいます。

尾原さん

もちろん転職したら給料が下がってしまうこともあると思いますよ。でも、今の職場がどうしても合わない場合、給料が下がっても次の場所に行くほうがいいこともありますよね。一時的に給料が下がっても、それを先行投資と考えて、転職先でスキルを身につけることで長期的には投資を回収できるということもあります。

――会社を辞めるとき、できるだけ円満に退職するにはどうしたら良いのでしょうか?

尾原さん

大前提として、会社を辞めるときに円満退職なんてありえないですよ。どんな形であれ、辞めるときに波風は立ちます。有能な人なら、引き止められるのは当然ですし。

ですから、あっさり認められることのほうが少なくて、(辞めることに対して)非難する人もいるでしょうし、嫌な思いもするでしょうが、それは仕方のないことです。

だから僕が心がけているのは、辞めた後も、その会社にGIVE(与える)し続けることです。そうすると、理解してくれる人は増えてきますし、会社を辞めたあとも、その会社が自分の「味方」になってくれるんです。

――辞めてからのギブには、具体的にはどんなものがありますか?

尾原さん

最近面白いと思ったものや役に立ちそうな情報を連絡したり、外部の人間としての率直なアドバイスを伝えたりしますね。

先ほどお話ししたように、同じ環境に長くいると、自分にとっての当たり前と世間にとっての当たり前がズレちゃうことが多々あるんです。海外旅行に行けば、日本では当たり前だと思っていたことが、日本独自の美点や強みだと気がつきますよね。それと同じで、会社の外に出れば、(外からの視点は)それだけで価値を持つんですよ。

――最後に、会社を辞めたいけれど辞められないと悩んでいる人に向けてメッセージをお願いします。

尾原さん

「逃げるは恥だが、役に立つ」ということわざの通りで、命の危険を感じた場合は、まずそこから逃げること、とにかく生き延びることが最優先ですよ。

たとえば、飛行機に乗ったときに、酸素マスクの着用方法の解説動画が流れますが、大人が酸素マスクをつけてから子どもにも着用させます。なぜかというと、大人が先に気絶してしまったら、子どもにマスクをつけてあげられなくて、共倒れてしまうからですね。

つまり、会社で働くのも同じで、まずは自分自身の安全を確保することが最優先で、そうしなかったら、自分の家族を守れないですよね。

安全が確保されていないんだったら、その場から離れること。逃げることを負けることのように思う人もいるかもしれませんが、大事なのはその先です。次こそ自分を評価してくれる会社へ行って、そこでいい仕事をすればいいだけのこと。

もしも「自分が会社を辞めたら、収入がなくなるから、家族のために辞められない」って悩んでいる人がいるとしたら、自分ひとりで悩みを抱え込んでいないで、家族に相談してみたほうがいい。家族はきっと「そんなに辛いのを我慢する必要はないから、辞めろ」って言ってくれますよ。家族にとっては、その人が元気でいてくれるほうが大事ですから。旦那さんが会社を辞めても、奥さんが「じゃあ、私が代わりに働くから」って言ってくれるかもしれないし、意外な解決方法が見つかるかもしれない。

就職や転職は手段であって、人生の目的ではありません。自分の人生やキャリアをつくっていく上で、ひとつの会社は、ひとつの通過点にすぎません。

さっきも言いましたが、これからは人生100年時代ですから、一時的に「辞める=逃げる」という選択をしたとしても、長い目で見たときにそれがポジティブな意味をもつように、「その次」を考えることが大事ですね。

インタビューを終えて

この日はバリ島のご自宅にいらっしゃった尾原さん。Web会議ツールを使い、バリ島と東京をインターネットでつないでインタビューさせていただきました。まさに「どこでも誰とでも働ける」スタイルを軽やかに実践している尾原さんでした。

 

尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

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